教授法(原文) |
第一章 |
(A)概説 (B)競技参加者 (C)專門家 |
(A)概説 |
成功する教師の第一條件は、教へるといふ事それ自身を愛する |
気持であるが、まだこれのみでは充分とは云ひ難い。教師たるも |
のは教材を内面的にも外面的にも徹底的に知らなげればならぬ。 |
而してそれを解剖し、或は綜合し得なければならぬ。各ダンスに |
就いても、その基本ステツブから最近のヴアリエイシヨンに至る |
まで精通してをらねぱならす、また如何にしてそのダンスが発達 |
したか、進んでは如何にしてその未來を豫測し得るかに就いても |
定見を持ち、更にこれ等すべてに加ふるにテクニツクの徹底的な |
把握を必要とするものである。 |
その上は生徒の心理をよく了解し、同情と忍耐とを以て一人一 |
人をその個人的な要求に応じて導いて行かねぱならない。 |
寧ろ賢明なる教師は、各生徒から何事かを教へられると言つて |
よいのである。 |
ボール・ルーム・ダンスの教師は・ダンスそれ白身が生きもの |
であり・叉それ故に絶えす変化するものであるから・これを警へ |
れば数世紀聞少しも変化せぬラテン語を教へる古典學者といはん |
よりは、時代と共に並行して進まねばならぬ医者に喩えへられるで |
あらう。 |
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時代と共に進むといふ事は難しい間題で、これを守つて行くた |
めには絶えざる注意が肝要である |
教師たるものは、その教授に就いて充分に信用し得べき根拠、 |
例へば基礎の確実なソサェテイの技術講習会(technical school) |
叉は講演、或ひは著名の、而もテスト済みの教師等から學ぶべき. |
である。もし読むならば、普通の新聞雑誌に云はれてゐる事など |
をそのま々當にしたりせすに、唯だ公認のダンス誌や定期刊行物 |
に載せられてゐる記事のみを信ずるやうにしなげればならぬ。 |
上述の諸点に就いての詳細は後章に於て述べる事とする。 |
それ等を読む前に、教授所の所長及び将來自身の教授所を設立 |
せんと熱望されて居る方々は、次の提言を是非読んでいただきた |
い:一 |
適當なる場所に出來る限り絶好の建築物を求め、それが常に出 |
來る限り人目を惹くか何うかといふ事にも注意されたい。 |
すぺての生徒が氣持よい待遇を受け、氣樂に過せるといふ感じ |
を持つやうに、すべての準備を整へること。 |
職員と研究生との選考に注意を沸つて下さい。一人の感心で來 |
ない人物は、教授所の非常な迷惑となるから、職員の誠実を |
重んじ、萬一不誠實を見出したならば二葉の中に不誠實者の一 |
芽を摘み取り叉同時にその原因を探求して救済方法を講じて |
下さい。職員も研究生も経済の許す範囲に於て出來る限りス |
マートに且つ身装もきちんとしてゐて欲しいものである。 |
スクール・ダンス、お茶及び晩のダンスに於ては、お客様の接待 |
をよくし適当に紹介するといふ事に注意しなげれぱならぬ。 |
職員に一番上手な踊手である客を決して濁占させてはなら |
ぬ、下手な人程優れた助力と慫慂が必要なのであるから。 |
音樂は蓄音器であらうと、ピアニストのであらうと、叉はバン |
ドによるものであらうと、何れにせよ第一流且つ時勢に後れ |
ぬものであるやうに心がげられたい。ダンス・ミュージツク |
のリズムとスタイルは始終少しづつ変つて行くものであつ |
て、それにつれてダンスのスタイルとムーヴメントも変つて |
行くのである。 |
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(B)競技参加者 |
競技参加者はアマチユア(素人)とプロフエツシヨナル(專門 |
家)とを間はす、これを二種に分ける事が出來る。 |
第一は眞面目にコーチを受けたいと望んでゐる人、第二はほん |
の一二回、単にその教師が競技会の審査員であるといふ理由から |
教授を受げに來る者である。後者の組は大低自分のダンスにすつ |
かり満足し切ってゐる手合いであるから、たとへ彼等にとつてそれ |
が何れぼど必要な事であらうとも、教へられる事など一切耳に入 |
れない連中である。 |
前者は最も教へ甲斐のある人々であつて、これには次の如きコ |
ーチの方法が最も有効であらう。 |
(1)・主要な欠点を挙げて頭の中で表につくれる迄、踊つてゐる |
のを途中で干渉せすに見てゐる事。 |
(2)・此等の欠点に対する矯正法のプランを、第二部第一章〔37 |
-40頁〕に用ゐられてゐる順序に基づき、一定の順序に從つて |
立てる事。 |
(3)一度のレツスンに、あまり多くを矯正しようとしてはなら |
ぬ。レツスンとレツスンの聞に行ふ實習で、丁度具合よく呑み |
込んで覚える事が出來る程度にする事。 |
(4).出來得る限り多く實習の機会を興へる事。 |
(5〉省自のパァトナFを代る代る取換へてみることによって、 |
彼(叉は彼女)のパァトナーの欠点を何如にすれば補って矯め |
てやる事が出來るかといふ事を示す事、叉一人のパァトナーの |
欠点と思はれるものは、事実又他の人にも共通欠点であると |
いふ事を常に了解せしめる事。此の場合彼等の間に軋櫟を起さ |
ぬやうに注意する事。鋭敏な非常に輿奮した二人の踊手同志が |
寄ると何うしても神経過敏になつて、お互を悪く云ひあひ易い |
ものである。 |
(6) 一人一人のバアトナーがそれぞれ異つた踊手と踊れるやう |
に計ふ事。それと同時に一人が間違った所を、他のパァトナー |
達にも指摘して説明する事。 |
(7).使用ステツプに関しては、あまり度はづれに複雑な入り組 |
んたものや、突飛なものを許してはならぬ。最初は一般公認の |
ヴァリエィションの範囲に限り、これらが完全に出来た暁に、 |
初めて更に進んたものを許すべきである。と同時にあまり紋切 |
型の変化のないものにしてしまつてもいけない。個性を尊重し |
てこれを発揮させ、各自が最も巧く踊れる、又その人柄、背丈 |
等々に最も相応はしいアマルガメィションを選考させる。 |
(8〉カツブルの白信を挫く事のないやうにする事。出來得るならぱ |
激働を以て教へ導き、最後の稽古としては小競技會に出して観 |
衆に馴れさせ、更に出來得べくんばスクール・ダンスに於て単 |
濁に踊らせる事が大切である。 |
(9)。最後に、たとへ競鼓には負げても見苦し<ない踊手−一立 |
派な敗者であるやうに仕込む事。 |
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(C)専門家 |
これにも亦二種類ある。第一は技とか公演に出る為めに自分 |
達のダンスを矯正し上達させるために來る者・第二は最近の新し |
いヴアリエイシヨンや教授要目の変化等を知るために來る教師達 |
である。 |
後者に採るべき手段に就いては第四章、「教師週間」の説明のと |
ころに論じてある。彼等に対する個人教授の場合も、一自然もつ |
と詳細に亙ることは論するまでもないが、一一これと同じ順序で |
教授する事が出來るのである。前者に就いて云ふならぱ、大体 |
に於ては競技参加者のために概略述ぺた方法と同じものを適用す |
る事が出來る。但し專門家である限り迅速に進歩する必要と、も |
つと念入りに作つたプログラムによる必要はあるげれども。更に一 |
もしこれがデモンストレイシヨンの準備教育をする場含であつた |
ならば、必ず一定の既定法式(routine)を定めておいて、これを |
踊るやうに主張すべきである。そしてこれ等は詳細に亙つて音樂 |
の第一小節より最後に至るまで作り上げ、それを音樂に合ふやう |
にアレンヂし、それぞれ適當なフイガ及びムーヴメントをフレイ |
ズするやうにせねばならぬ。叉出場と引込みの練習に充分な注意 |
をはらっていただきたい。そしてカツプルがデモンストレイシヨン |
を行つてゐる間中愉快さうに見えるやうに注意していただきた |
い。出の時の塊ぢ入つたやうな恰好や、ぎごちない不馴れな引込 |
み、しかつめらしい澁面は大禁物である。 |